性同一性障害の治療というと、ホルモン療法や性別適合手術(性転換手術)が浮かぶのではないでしょうか。確かにこれらの治療は、性同一性障害の当事者に対してよく行われています。しかし、性同一性障害の治療はこの2つだけではありません。精神面や社会での困難などを解決したり軽減したりする治療も大切です。

性同一性障害の治療の3段階

性同一性障害の治療の指針を定めた、日本精神神経学会の「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」(以下、「ガイドライン」と表記します)があります。このガイドラインでは、性同一性障害の治療は、精神科でのカウンセリングが中心の第一段階、ホルモン療法が中心の第二段階、性別適合手術(SRS)を行う第三段階に分けられています。

性同一性障害(MTF)の治療の段階・分類 チャート

第一段階とされるのは、精神・心理・社会的な治療です。ここには、精神科医による面接や診断をはじめに、社会適応のための治療や、臨床心理士など心理専門職によるカウンセリングなどが含まれます。そして、第二段階のホルモン療法と第三段階の性別適合手術では、身体的な治療が行われます。

性同一性障害の治療はガイドラインでは3段階に分けられていますが、当サイトでは説明の便宜上、「身体的な性別移行」と「社会的な性別移行」に分けて考えています。

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ガイドラインは当事者の生活の質の向上のためにあります

ガイドラインに沿って治療を行う場合は、まず初めに精神科でのカウンセリングからはじまり、段階ごとに進めるということになっています。

しかし、ガイドラインで定められている順番は「何が何でも絶対にこの通りに行わなくてはいけない」というものではありません。ガイドラインは当事者に対して制限や強制を加えるものではなく、当事者の生活の質(QOL)の向上のために、最もよいと考えられている手順が示されているのです。

心理(精神)的な治療

精神科やメンタルクリニックでは、性同一性障害の診断やそれに伴う二次障害(うつや社会不安など)の治療を行います。

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生活史の聞き取りと性自認(心の性)の判定

まず、性別に違和感があるとか、「女性になりたい」(MTFの場合)という理由で精神科の門をたたくと、「幼いころはどのように過ごしていたか」(生活史)とか、「性別の違和によって現在どのようなことで困っているか」などのヒアリングがあります。場合によっては、心理テストが行われることもあります。

ヒアリング・カウンセリングの結果、身体の性別と心の性別が一致しないと判断されると、現在の身体的な苦痛や社会的な苦痛を軽減するための治療が始まります。例えば、自分の男性的な体に嫌悪感がありそのことで抑うつ状態になっている場合は、なんらかのお薬が出されるかもしれません。

また、身体を変えて女性として生きるのが本当に最適なのかを一緒に話し合っていくこともします。性同一性障害だからといって、必ずしも身体を変えなくてはいけないわけではありません。社会的立場などの状況によっては、身体を変えることが最善ではない場合もあるでしょう。例えば、自分は女性になりたいと思っていても、そのことで深く思い悩んでいたり、心身症を発症したりなどの支障がないのであれば、そのままの性のまま生活する方がいいかもしれません。

そのほかにも、どうやってカムアウトしたらいいかを相談したり、学校や職場にどう説明したらいいか考えたりなどもします。必要であれば、診断書を出してくれたり、精神的・心理的な面から専門家のアドバイスを受けることができます。

心理的・精神的な治療は、ホルモン療法や性別適合手術に進んでも続きます

これまで説明してきた精神面・心理面でのヒアリングやカウンセリングなどが、ガイドラインでいうところの「第一段階の治療」にあたります。第一段階の治療は、診断が確定するまでと考えられがちです。ガイドラインでは、第一段階の治療は第二段階・第三段階(ホルモン療法や性別適合手術など)に進んだあとも継続して行うことになっています。

ホルモン療法を始めたり、性別適合手術をしさえすれば、女性になれるわけではありません。社会的に女性として受け入れられるためには、さまざまな支援が必要ですし、MTF(元男性)ならではの困難や課題もあり、メンタル面のバランスを崩してしまうこともあるでしょう。そういったときには、性同一性障害に詳しい精神科のお医者さんは大きな力になってくれます。

身体を女性に近づけることがゴールではなく、当事者の生活の質の向上や社会での適応も大切なのです。また、性別適合手術を受けるためには、精神科医による診断書が必要ですし、改名や戸籍上の性別の変更でも精神科医による診断書が求められます。

ところで、これまであげてきた治療は性同一性障害に理解のある先生でないと、いい結果が期待できないこともあります。適切に診断が行われなかったり、診断自体はできたとしても、その後の治療が不十分だったりする可能性があります。

以前に比べて、性同一性障害の理解が広まってきているため、熱心な精神科のお医者さんであれば、性同一性障害について勉強されていると思いますが、できれば専門医を受診した方がいいです。

性同一性障害に詳しいお医者さんのリストは、次のサイトが詳しいです。

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